学術会合報告
日本応用数理学会2013年度年会の感想
2013年12月17日
木村 拓馬
きむら たくま
早稲田大学 理工学術院
9月9日から11日にかけて,2013年度年会が開催されました.
今回は福岡の一等地,天神1-1-1のアクロス福岡にて開催されました.印象的な景観のキレイな建物であり,空港・駅からのアクセスがよく,周辺に宿がたくさんあり,歓楽街も近いため懇親やディスカッションもばっちりという素晴らしい会場でありました.
私は自分の専門分野に関連する,早稲田大学理工学術院総合研究所主催の精度保証付き数値計算ワークショップと,計算の品質部会OSに常駐しておりましたので,まずは宣伝も兼ねてこちらの感想を述べさせていただきます.
計算機は計算を間違うことがよくありますので,数値計算には誤差がつきものです.渡部善隆先生のご講演では,誤差をバクテリアに例え「どこにでも少しは居る」,「増殖すると病気になる」,「簡単には殺菌できない」といった旨のKahanの比喩の紹介がありましたが,とにかく誤差のおかげで計算結果が信用できない場合があります.
しかし,最近は誤差の範囲を特定し,計算機による計算結果に信頼性を与える精度保証付き数値計算の技術が活発に研究されています.例えば尾崎克久先生のご講演では,高々1ビットしか計算を間違わない線形計算の手法をご紹介されました.
計算結果が信用できるとなると,それを使って数学の証明ができるようにもなり,夢が広がります.その結果,計算の品質部会の講演内容はバラエティに富んでおり,高精度計算,精度保証法のスパコンへの実装,数理計画,常微分方程式や偏微分方程式の解の存在性・一意性の証明などさまざまです.私も二次計画問題の精度保証付き解法について拙い講演をさせていただきました.関連する講演件数も,OS 10件,ワークショップ5件,一般講演2件と比較的多くありました.私はうち4件の講演の座長を務めさせて頂きましたが,常微分・偏微分・解の追跡など新しい成果の数々にステキなコメントができず,勉強不足を思い知らされました.
二日目には,精度保証業界では著名な,大石進一先生と中尾充宏先生のご講演が2件続けてありました.朝一番にもかかわらず聴講者が多く,大きめの部屋が割り当てられていたのですが席を詰めている様子が見受けられました.大石先生は回路理論と精度保証付き数値計算について,中尾先生は“中尾の方法”として知られる微分方程式の精度保証法の歴史・裏話?将来について,それぞれ大変面白いお話をされました.楽しく聴講させていただく一方,「自分が還暦を迎えたとき,新しい分野にチャレンジできるだろうか?」と感じ入った次第でありました.
そして,ホテルオークラでの懇親会も大変印象に残っております.
参加費が安くても,料理や飲み物が早々に無くなって不満が残り,二次会が高くついてしまう懇親会も少なくないかと思いますが,今回は大満足でした.今回も,わずか一時間前に終了したポスターセッションの表彰が行われ,最優秀賞は九大の井元さん・田上先生が受賞されました.記憶が残っているうちに表彰があると話題になりますので,良いやり方と思いました.また,実行委員会より,「収支はトントンか少しの黒字」とのお話がありましたが,今回の様子ですと会費が充分に参加者に還元されていたように見えました.
他には行列・固有値,科学技術計算のOSを聴講しました.今回は7セッションがパラレルに行われ,仕方のないことではありますが,精度保証の裏番組を聴講できず,少々残念でありました.
以上,感想を述べさせていただきましたが,今回の年会は,会場や懇親会など随所に運営側のホスピタリティを感じる素晴らしいものでありました.実行委員の皆様にはこの場を借りて御礼申し上げます.応用数理学会年会は参加費以上に楽しめる立派な学会との印象を受け,ぜひ次回も参加したいと思いました.