学術会合報告
ILAS2013
2013年09月24日
福田 亜希子
ふくだ あきこ
東京理科大学理学部数理情報科学科
2013年6月3日から7日まで,Providence, Rhode Island, USAにて国際会議the 18th Conference of the International Linear Algebra Society (ILAS2013, http://www.ilas2013.com/)が開催された。本会議はInternational Linear Algebra Society が主催しており,1~2年に一度開催されている。Providence中部に位置するT. F. Green空港から2マイル程のところにあるCrowne Plazaホテルで開催され,参加者は300名程であった。
以下に,会議全体の外観を述べたい。会議名称のとおり,分野は線形代数に関わるものが主であり,純粋数学から応用分野,教育問題に至るまで非常に幅広かった印象である。12名のPlenary Talkに加えて,テーマ毎に39のセッションが組まれた。各セッションの詳細は以下のとおりである。まず,12のInvited ミニシンポジウムとして,量子計算,グラフ理論,ランダム行列理論,多重線形代数,直交多項式論,多項式の根計算,非線形固有値問題,テンソル分解,クリロフ部分空間法,行列の記号計算,Abstract Interpolation and Linear Algebra,Structured Matrix Functionがあった。さらに,13のContributedミニシンポジウム(組み合わせ論,一般化逆行列,行列不等式, Total Positivity,ペロン・フロベニウスの定理,最小二乗問題など)に加えて14のContributedセッション(Numerical Linear Algebra,Nonnegative Matrices,Matrix Pencilsなど)があった。これらの中から6つのセッションがパラレルで進行し,Plenary Talkも加えて連日朝8時から夕方19時までの過密なスケジュールであった。興味深いテーマの講演がいくつも重なっており,聞きたかった講演を聞き逃したのが悔やまれる。
以下,印象に残った講演を挙げる。David Watkins教授(Washington State University)の講演では,多項式の根計算のためにコンパニオン行列の固有値をO(n2)の計算量とO(n)のメモリ使用で計算するアルゴリズムの提案があった。固有値の計算はbulge-chasing型の陰的QR法に対応する,とのことであった。他の多項式の根計算に関連する講演では,多項式系を対象とするアルゴリズムや,複素平面上の特定の領域内の根のみを計算するアルゴリズムなど,様々な問題意識を持つ研究が多くあり,非常に興味深かった。
バンケットでは,Hans Schneider Prizeの受賞者の発表があり,今年度はThomas Laffey教授(University College Dublin)が受賞した。この賞は線形代数分野で顕著な業績をあげた研究者に対して贈られるものであり,3年に一度発表されている。日本人では,安藤毅教授(北海道大学名誉教授)が2002年にこの賞を受賞されている。
エクスカーションでは,Newport Mansionsの見学に行った。19世紀の終わりごろから20世紀初めにかけてアメリカ東部の大富豪たちが夏の別荘として建て,現在は一般公開されている。中でも有名な邸宅であるThe BreakersとRosecliffの2グループに分かれて行動した。著者はThe Breakersを選んだが,そこには23のバスルームを含めた70もの部屋があり,大理石をふんだんに使ったとても豪華な装飾があちこちに施されていた。また,大西洋を見渡すことができる広々とした庭は圧巻であった。
次回のILAS Conferenceは2014年8月6~9日にInternational Congress of Mathematicians(ICM2014, 8月13~21日,韓国・ソウル)のサテライトカンファレンスとして,韓国・水原(スウォン)のSungkyunkwan University(Science Campus)にて開催予定である。詳細はhttp://matrix.skku.ac.kr/ILAS2014/を参照されたい。