学術会合報告

第41回数値解析シンポジウム(NAS2012)参加報告

2012年12月18日

多田野 寛人,今倉 暁

ただの ひろと,いまくら あきら

筑波大学

2012年6月6日から8日の3日間の日程で日本応用数理学会共催の元,群馬県渋川市の伊香保温泉にて第41回数値解析シンポジウム(Numerical Analysis Symposium 2012: NAS2012)が開催された.実行委員長は筑波大学の櫻井鉄也先生で,著者らも実行委員の一員としてシンポジウムの運営に協力させていただいた.本稿では,実行委員の視点から今回の数値解析シンポジウムの参加報告をさせていただこうと思う.

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NAS2012集合写真
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NAS2012招待講演者(羽田野祐子先生)
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NAS2012招待講演者(Zhong-Zhi Bai先生)

今年で41回目の開催となった数値解析シンポジウムは日本応用数理学会よりも長い歴史があり,古くから日本の数値解析,応用数学分野を支えてきた伝統あるシンポジウムである.同シンポジウムは例年地方の温泉地で行われており,同世代の数人で相部屋となり文字通り寝食を共にすることで交流を深めることが大きな特徴である.特に修士課程・博士課程の学生や若手研究者にとっては,他の研究グループとの交流を深める絶好の機会であるように思う.学生時代や若手研究者時代に参加した数値解析シンポジウムでの交流をきっかけに,共同研究等を始めた研究者も多くおられると思う. 今回の数値解析シンポジウムは,石段街や日本三大うどん「水沢うどん」で有名な群馬県の伊香保温泉にて開催された.今年も例年と遜色ない81名の方々のご参加を賜り,26件の一般講演と6件のポスター発表が行われた.主な講演内容としては,行列計算,精度保証,数値積分,最適化など非常に多岐にわたっており,これらの講演を一会場で行うため分野を越えた活発な議論が交わされた. 本シンポジウムの招待講演として,筑波大学の羽田野祐子先生,Chinese Academy of SciencesのZhong-Zhi Bai先生のお二人に,それぞれ数値解析の応用面,及び理論面からご講演いただいた.環境工学がご専門の羽田野祐子先生には「福島事故後の大気汚染の長期予測」という題目で,2011年3月11日に発生した東日本大震災により引き起こされた福島第一原発事故での放射性物質による大気汚染レベルの長期予測についてご講演いただいた.また,数値線形代数等がご専門のZhong-Zhi Bai先生には「Block alternating splitting implicit iteration methods for saddle point problems from time-harmonic eddy current models」という題目で,鞍点問題と呼ばれる特殊な線形方程式に対する反復法とその前処理技法についてご講演いただいた.両招待講演者との活発な議論を通して,数値解析分野としての実社会への貢献,及びその根幹となる理論的側面の重要性を再認識することができた. 今回のシンポジウムの大きな特徴として,全81名の参加者中42名が学生という非常に若い世代の参加が目立ったことが挙げられる.それに伴い,6つの一般セッションの座長は30歳前後の若手研究者にご担当いただいた.日本の数値解析,応用数学分野を牽引する著名な研究者が多く参加する数値解析シンポジウムに参加・講演することは,若手研究者にとって非常に大きな成長に繋がるように思う.他の研究グループと活発な交流ができ,多くの著名な研究者の前で講演し議論できる数値解析シンポジウムは,今後も若手研究者の登竜門となっていくであろう. 2013年の第42回数値解析シンポジウムは,愛媛大学の天野要先生を実行委員長として開催される予定である.本シンポジウムは研究者間の交流を深めるまたとない機会である.来年も多くの方々の参加を期待しつつ,本報告を終えたい.