学術会合報告
EASIAM 2012
2012年12月18日
柏原 崇人,周 冠宇
かしわばら たかひと,しゅう かんう
東京大学大学院数理科学研究科
2012年6月25日から27日まで,台湾台北市においてEASIAM 2012 (The 8th East Asia SIAM Conference) が開催された. EASIAMは,応用数学を中心に工学・産業数学・数理生物学等も含めた応用数理全般を対象とした国際学会であり,毎年東アジア地域の都市で開催されている. 第8回を数える今年は,国立台湾大学天文数学館をメイン会場として,主に東アジア各国(米国・豪州・トルコからの参加者も見られた)から300人近い研究者・学生が集まり,過去最高の参加人数となった.
会議の日程は概ね3日間とも,午前に招待講演,午後にパラレルセッション(一般講演)という形で構成されていた. 招待講演のうち60分の総合講演が2件あり,細胞に生じる極性の振る舞いに対する確率モデルの構築とシミュレーションをテーマとした米国のPetzold先生の講演が印象的だった. 講演を締めくくった言葉「本研究で一番難しいことは,生物学・化学・情報工学の研究者と議論し,自分の専門以外の分野を勉強して協力すること」は分野横断的な彼女の研究スタイルを象徴しており,普段は単独で数学の研究をしている著者は深く感銘を受けた. その他に40分の招待講演が5件あり,日本からは東京大学の新井仁之先生が錯視をテーマに講演された.数理モデルから構成した多彩な具体例で実際に錯覚を体感することができ,聴衆の興味を引いていた. また,初日のパラレルセッションが始まる前に,学生論文賞 (Student Paper Prize) 講演が3件行われた.今年は残念ながら日本の大学からの受賞者はいなかったが,3件とも微分方程式の数値解析に関連したものであり,同分野を専攻する学生として,自分と同年代の人たちが研究活動で頑張っていることには大いに刺激を受けた.
パラレルセッションでは20分の講演が合計で約90件あり,5つのセッションが同時に進行するという形式で,各セッションには共通のテーマが設定されていた. テーマは Applied PDE, Numerical analysis, Applied numerical linear algebra, Mathematical analysis of engineering, Fluid mechanics, Mathematical biology/medicine, specific topics, Operation research and optimization, Auto-tuning の8つであった.講演の様子を写した写真が http://www.math.ntu.edu.tw/~easiam2012/photos/index.html で多数公開されており,雰囲気が味わえる.
6月下旬の台湾は日本と同様梅雨のようで,非常に蒸し暑く,ゲリラ豪雨のようなにわか雨もあった.暑さのせいかラフな服装の参加者が多かったが,かえってアット・ホームな雰囲気になってよかったと思う. その一方で,台北は交通の便がよく,物価は安く,食事も美味しく,街のあちこちで日本語が通じたりして,滞在は快適だった.会議のオープニングで主催者が宣伝していたとおり,台北は台湾の歴史と文化の中心であることが感じられた. 最後に,次回の EASIAM は赤道直下,インドネシアのバンドンで開かれる.東アジアの応用数理の研究者と情報交換・交流し,また自分の研究成果をアピールするために,次回もまたこの素晴らしい会議に参加できればと思っている.