学術会合報告

Causality in turbulence and transition 参加報告

2022年12月13日

本木 慎吾

もとき しんご

大阪大学

2022年5月3日から5日にかけて,スペインのマドリード工科大学で開催されたCausality in turbulence and transitionに参加しました.本研究会は欧州研究会議(ERC)およびマドリード工科大学の支援のもと,同大学のJavier Jiménez教授をリーダーとして企画され,流体力学,特に乱流分野の研究者が世界各国から集まり,乱流現象における様々な「Causality(特に「結果」と「原因」の因果関係)」について活発な議論が行われました.なお,新型コロナウイルス感染拡大の影響が依然として続く状況にあったため,一部の講演がオンラインで行われました.また,講演会場では入室時に手指の消毒およびマスクの着用が推奨され,ほぼ全ての参加者がマスクを着用していました.

招待講演として,大阪大学の河原源太教授,ハーバード大学のPetros Komoutsakos教授,ヨーロッパ中期予報センター(ECMWF)のMark Rodwell博士,ドイツ航空宇宙センター(DLR)のJakob Runge博士,UCLAの平邦彦教授の5名が質疑応答を含む各45分の講演を行い,28名の一般参加者が各20分の発表を行いました.また,2日目と最終日のセッション後にはディスカッションタイムが設けられ,2名のモデレーターのもと,闊達な議論が交わされました.

乱流を記述する運動方程式(特にNavier−Stokes方程式)はよく知られており,流体力学分野において,一般に信頼されています.このような運動方程式に基づき数値シミュレーションを行うことで様々な乱流現象を解析することができ,近年の計算機技術の急速な発展に伴い,乱流の時空間構造や統計法則が次々と明らかとなってきました.しかし,広範囲にわたるスケールの流れ(渦)の階層構造によって構成されるマルチスケール性を有し,時間・空間的に不規則に変動する乱流現象について,数値シミュレーションや実験による「結果」をもたらす「原因」を本質的に理解することは容易ではありません.本研究会では,「Causality」を共通のキーワードとし,乱流の秩序構造や統計法則,モデリング,解析・制御手法に関する様々な議論がなされました.

私自身はRayleigh−Bénard対流(温度差に起因する浮力により駆動される自然対流)を記述するBoussinesq方程式の不変解(非線形定常解)が対流乱流の秩序構造やスケーリング則を再現するという内容の発表を行い,関連する最近の成果について,共同研究者である河原教授もまた講演の中で議論されました.特に有意義だったことは,Rayleigh−Bénard対流に関する著名な研究者の1人であるTwente大学のDetlef Lohse教授が私の発表に関心を持って下さり,お互いの研究内容について,発表後のランチタイムに議論できたことです.オンライン形式の研究会においても,最近では様々な工夫により参加者同士の交流が図られていますが,より円滑なコミュニケーションの取れる対面形式の良さを改めて感じました.また,セッション間のコーヒーブレークにおいても研究者間の交流が盛んに行われました.

最後に,致し方ないことですが,帰国のためのPCR検査をマドリード市内の病院で受ける必要があり,研究会を途中退席しなければならなかったことが残念でした.また,世界情勢もあり長時間のフライトとなった航空機内では常にマスクの着用が義務付けられ,帰国後,空港での検査にも時間を要しました.このような状況下での海外渡航はリスクやデメリットも多いことは確かです.一方,新型コロナウイルス感染拡大後,オンラインで数多くの学会やセミナー,研究会が開催されてきました.私自身も様々なオンライン会議に参加し,多くのメリットを感じています.特に,毎週あるいは毎月といった頻度で行われる国際ウェビナーなどはオンラインならではだと思います.オンラインを活用した研究活動がより一層促進されるとともに,このコロナ禍が一日も早く終息し,対面での国際交流が再び活発になることを祈り,本参加報告を終えたいと思います.