学術会合報告

JSPS seminar 2022: Topics in computational methods for stochastic and deterministic differential equationsおよびSwedComp22参加報告

2023年04月27日

牛山 寛生

うしやま かんせい

東京大学大学院 情報理工学系研究科

Chalmers工科大学(スウェーデン、ヨーテボリ)にて2022年10月24、25日に開催されたJSPS seminar 2022 (Topics in computational methods for stochastic and deterministic differential equations)、及び26、27日に開催された4th Workshop on Scientific Computing in Sweden (SwedComp22)に参加した。

JSPS seminar 2022はDavid Cohen先生(Chalmers工科大学)主催のスウェーデン及び日本の数値解析学者による微分方程式の数値解法に関する短期共同研究である(https://www.jsps-sto.com/event/20221024/)。降籏大介先生・宮武勇登先生(大阪大学)の研究室及び私の所属する松尾宇泰先生(東京大学)の研究室は、以前日本学術振興会(JSPS)の後援でスウェーデンの数値解析学研究者(Stig Larsson 先生(Chalmers工科大学)やCohen 先生など)を招待し交流したことがある。JSPS Alumni clubは、JSPSの援助により生まれた研究者間の国際的な協力関係を維持・強化するため、セミナー等の開催を経済的に支援している。今回の研究集会もJSPS Alumni clubの助成により実現した。

日本からの参加者は降籏先生・宮武先生に加え、若手の剱持智哉先生(名古屋大学)・佐藤峻先生(東京大学)と学生の私(東京大学、情報理工学系研究科修士2年)の5人であった。日本勢からは4件、スウェーデン勢から5件の講演があり、私はChalmers工科大学の博士課程学生と共に聴講した。日本勢は主に構造保存型数値解法の分野の研究者、スウェーデン勢は確率微分方程式の分野の研究者が多かった。そのため、スウェーデン勢からの講演は、(私のこれまで参加した)日本国内の学会であまり扱われることのない、確率微分方程式に関するものがいくつかあり新鮮であった。講演はこれらの分野以外にも、不確実性定量化や紙の繊維のモデリングなど様々な分野に跨るものもあった。

講演室とは別にディスカッションルームが用意され、2日とも多くの時間がディスカッションに割かれた。講演内容に関することや、とある方程式の数値解法についてなど、個々にさまざまな議論がなされた。しかし、私は少ししか議論に参加できなかった。私の英語が未熟なせいでもあるが、私の研究分野と今回の共同研究の内容が若干離れており、相手の研究の話をするにしても自分の研究の話をするにしても準備不足であったことが大きな原因である。英語でのコミュニケーション経験が浅いなかでの初めての海外出張であったので、とにかく生存のために日常会話を仕込んでいたが(これも役には立ったが)、事前に自分の研究内容を日本人以外に伝える準備をしたり、講演者の論文をもう少し具にチェックしたりすべきであったと後悔している。

日本勢の先輩方の英語は、ネイティブの方々ほど流暢ではないとしても、伝えるべきことを的確に伝えることで対等にコミュニケーションが成立していた。流暢な英会話以外をほとんど聞いたことが無く、自分の英語能力との隔絶に半ば絶望していた私にとって、これは手近な足がかりとなる目標になった。

我々日本勢は引き続きSwedComp22にも参加した。この会議はスウェーデン国内の大学が参加する、数値解析学全般に関する大規模な研究集会である。この集会もやはり確率微分方程式に関する話題が多かった。また、私が現在研究している、最適化と数値解析の融合領域の研究発表も数件あった。ポスターセッションも開催され、この領域の研究ポスターもでていた。これらの研究は確率的なセッティングのものであり、現在決定論的な研究している私は将来の研究のアイデアをもらえた。JSPS seminarでは不完全燃焼であったので、ここぞとばかりに質問したり、ポスターセッションに話しに行ったりした。意外とこちらの意図した内容が伝わり、英語でのコミュニケーションに対して楽観的になれたのはよかった。

以降、今回の出張の雑感と備忘録である。Chalmers工科大学は小高い丘の上に位置する大学である。大学の照明(というよりスウェーデンの照明)はほとんどが電球色であり、全体的に柔らかな印象を受けたが、明るさは日本より控え目なので暗いと感じる人がいるかもしれない。WiFiはeduroamが利用できるためインターネットへの接続は問題なかった。出張時はコロナ禍であり、日本ではマスク未着用だと白い目で見られがちな時期であったが、スウェーデンでマスクをしている人は全くいなかった。大学内も、たまに形骸化したアルコール消毒液こそ置いてあるものの、コロナ対策はほとんど意識されていないようであった。スウェーデンのレストランではお手拭きが出てくることがほとんど無いが、その割に、パンやフレンチフライなど、日本に比べ素手を使って食事をする機会が多いので、気になる人はウェットティッシュなどを携帯するとよいだろう。滞在地は高緯度帯に加えサマータイム期間終盤であったこともあり、日の出が遅く、8時過ぎになってようやく明るくなり始める時期であった。そのため早朝から会議に参加している気分であった。滞在中天気はずっと曇りか雨で安定せず、あたりは薄暗く、道路は常に濡れていた。調べてみるとこの時期のヨーテボリの典型的な天気であるらしい。防水性の靴を履いていかなかったため、靴が常に大変なことになっていた。スウェーデンは完全にキャッシュレス社会であり、滞在中すべての支払いはクレジットカードで行った。現金を見る機会は1度だけあったが、それはコインロッカーを閉めるために必要なコインがコイン返却口に備わっていたときである。(ネコババしたくなる人がいないくらいキャッシュレス社会なのだろう。)

最後に、私に今回出張の機会を与えてくださった指導教員の松尾先生、本セミナーの開催を助成してくださったJSPSの方々、及び主催してくださったCohen先生をはじめとするChalmers工科大学の先生方に厚く御礼を申し上げたい。