学術会合報告

The 12th Japanese-Hungarian Symposium on Discrete Mathematics and Its Applications参加報告

2023年06月29日

山口 勇太郎

やまぐち ゆうたろう

大阪大学大学院情報科学研究科

2023年3月21日から24日までの4日間にわたって,The 12th Japanese-Hungarian Symposium on Discrete Mathematics and Its ApplicationsがEötvös Loránd UniversityのLágymányos Campus (Budapest, Hungary) で開催された.本シンポジウムはその名の通り,ハンガリーと日本の研究者が離散数学とその応用に関する話題を持ち寄って発表・議論・交流する国際会議であり,1999年の京都での開催に始まり,2019年まで隔年でハンガリーと日本で交互に開催されていた.しかし,2021年に開催予定だったものがCOVID-19の影響で延期され,2年の時を経てようやく開催できたというのが今回のシンポジウムである.まずは,度重なる状況の変化に対応し,時期と場所の選定をして,4年ぶりの開催に漕ぎ着けたOrganizing Committeeの尽力に感謝と敬意を表したい.

シンポジウムは8件の招待講演(内6件が日本)と65件の一般講演(内13件が日本)で構成され,招待講演と一部の一般講演を除き2つの部屋で並列に進行した.日本からの一般講演が少ないのは,年度末であることと卒業式シーズンと重なってしまったことによる影響が大きいと推察するが,それを補って余りあるほどにハンガリーからの講演が非常に多く多彩で驚いた.それだけこの4年間に積もり積もっていたものがあるのだなと感じ,改めて今回無事に開催されて良かったと思う.

本シンポジウムは研究交流促進の意味合いが強く,完成された研究成果を発表するだけでなく,取り組んでいる問題や問題意識を共有するという側面も大きい.招待講演はもちろん一般講演も興味深いものが多く,グラフやマトロイド,劣モジュラ性や離散凸性に関する伝統的な話題をはじめ,組合せ最適化を代数的に捉えたEdmonds問題に関する最近の進展や,公平分割や価格設定といったゲーム理論的な問題に関するものなど,様々な講演があった.一般講演は並列セッションであるため全てを聴くことができず惜しいという気持ちもあるが,これだけの数の講演があって盛況であることは単純に喜ばしいことであろう.

特に印象に残っているのは,「とある予想に関連した問題のアルゴリズム的側面に取り組んでいる」という講演である.元の予想はグラフの彩色に関する非常にシンプルなもので,講演内容も興味深く聴いていたのだが,質疑応答の時間になって座長が「ついこの間その予想を解決したという論文がarXivに上がっていたよ」とコメントし,講演者は仰天していた.内容の正当性までは確認していないが,たしかにそのようなプレプリントが存在しており,この分野(いわゆる情報系のようなスピード感は無いことが多い)でもそういうことがあるのだなと少し驚いた.同時に,取り組んでいる問題や関連する問題に自分自身でアンテナを張っておくことはもちろん必要だが,周囲に共有して情報交換することも重要だと再認識させられる一幕であった.

シンポジウムでは研究講演の他に,初日の夜にはWelcome Receptionとして同キャンパス内にあるBudapest University of Technology and Economicsの建物で軽食付きの懇親会が,3日目の夜にはBanquetとして外部のレストランで夕食会が催された.久しぶりの大規模な交流に刺激を受けた人も多かったように見受けられる.かく言う筆者は最終日の朝一番に招待講演を控えていたが,せっかくのディナーなのでとBanquetでお酒をあれこれと頂いていると,複数人から“You are crazy.”と笑われてしまった.もちろん笑い話であり,翌朝の招待講演も恙なく終了した.(と少なくとも筆者は思っている.)

この数年で状況は大きく変わっているが,久しぶりの開催となったシンポジウムで以前と変わらない(あるいはより盛況な)研究交流ができたのは喜ばしいことである.これを機に,ハンガリーと日本の共同研究がより盛んになることを期待している.また,次回のシンポジウムは2025年に東京工業大学(開催時には名称が変更されている見込み)で開催予定である.次回も今回のように素晴らしいシンポジウムとなることを願うとともに,自分自身がその一部に貢献できるように研究と教育に邁進していきたい.