学術会合報告

SIAM Conference on Applications of Dynamical Systems (DS23)参加報告

2023年08月07日

高安 亮紀

たかやす あきとし

筑波大学 システム情報系

2023年5月14~18日に米国オレゴン州ポートランドで開催されたSIAM Conference on Applications of Dynamical Systems (DS23) に参加したことを報告します。この研究会は米国の応用数理学会SIAMの力学系グループの国際会議です。隔年開催されており、「Snowbird」という愛称で親しまれています。これは2019年まで長らくユタ州のSnowbirdというスキーリゾートで開催されていたことからついた愛称です。前回の2021年からポートランドに移転する予定だったようですが、コロナ禍により遠隔学会となり、ポートランドでの開催は今回がはじめてです。世界中から集まった1,000人以上の参加者が大きなホテルの会場に集い、力学系理論と生物学、化学、物理学、気候科学、社会科学、産業数学、データ科学などを含む学際的な研究発表を展開します。力学系理論を開発する研究者と力学系を利用する数学者、科学者、技術者の間のコミュニケーションを活発化することを目的に会議が開催され、SIAM関連の国際会議で定番の朝8時から夜8時までぎっしりスケジュールが組まれる国際会議です。全てに参加することは難しいですが、膨大な数の研究者が一堂に会す会議は特に博士後期課程の学生達にとってネットワークを拡げる良い機会です。その証拠に会期中には大学院生が中心となった研究者とインフォーマルな会話ができる特別セッションが開催され、世界の研究者と知り合いになる機会が設けられていたり、特定の分野のミニチュートリアルセッションが設けられ勉強したりもすることができます。

国際会議の注目イベントはPrize Lecturesでした。今回はUniversity of Michigan のVictoria Booth 先生がJ. D. Crawford Prizeを、京都大学の蔵本由紀先生がJürgen Moser Lectureをそれぞれ受賞し、Prize Lectureが会期中に行われました。特に、蔵本先生の講義は、パターン形成の草分的研究からご自身の名前がついているKuramoto-Sivashinsky方程式と、結合振動子系のKuramotoモデルについてその着想から発表、名前が浸透していく顛末を紹介されていました。残念ながら現地で直接お会いすることはできませんでしたが、講義ビデオが会場で披露され、その様子はSIAMのYouTubeチャンネルで動画が配信されています(https://youtu.be/2P-EgTSa-E4)。

筆者は「Computer-Assisted Proofs in Dynamics」というミニシンポジウムで講演を頼まれ、時間発展方程式の解の大域存在を計算機援用する研究を発表しました。このセッションでは、力学系の大域的なふるまいを計算機援用証明の方法で捉える研究成果が多く発表され、この分野の最近の進展を体感できました。特に、全領域で定義された偏微分方程式を計算機援用証明する方法論が多く発表され、これまで未着手だった全領域上の偏微分方程式の解を計算機援用証明によって明らかにする研究が盛り上がりつつあります。計算機を併せて数理解析の未解決問題を解いていく新しい数学のかたちが少しずつ拡がり始めています。

最後に国際会議に対面参加して感じた学生さんの活気について紹介します。今回の国際会議では学生さんの活気が段違いでした。米国の大学院生が活発なのか、SIAMが特に学生向けの活動に力を入れているからなのか、詳しく理由は分かりません。学生が研究議論に前のめりに参加し、積極的に意見を出し合う様子はとても感動的でした。筆者も日本応用数理学会若手の会の運営幹事を昨年度まで務めさせていただき、数年間3月に「学生研究発表会」を開催して、コロナ禍でもオンラインを通した研究発表会を実施できた自負がありましたが、学生さん等を鼓舞するような研究の場を提供できていたかという点は疑問が残ります。少なくとも今回の国際会議で出会った多くの大学院生は自分の学んできたことを研究レベルに利用し、新たな研究成果を挙げようと躍起になっていて、このような熱量の高い雰囲気は日本での学会では見られないなと感じます。この先、学会に関わる学生さん達にモチベーションを与えられるような、学生さんが萎縮しないで伸び伸びと活動できるような、そんな学会の雰囲気を若手でなくなった筆者の世代が牽引できると良いなと思いながら、帰路に就きました。今回、円安と物価高の影響で出張は大変でしたが、欧米の研究コミュニティから刺激をもらえる機会は大変貴重だなと感じています。日本の学生の皆さんも物怖じせず、国際会議で刺激を受けて自身の研究活動にぜひ活かしてほしいです。